朝日新聞
10月16日は世界食料デー 「栄養失調は治療が可能な病気です」
2011年10月13日
10月16日「世界食料デー」に寄せるメッセージ:
「栄養失調は治療が可能な病気です」
国境なき医師団(MSF) 日本事務局長 エリック・ウアネス
2010年9月、日本政府は国際保健政策(2011-2015)を発表し、国連ミレニアム開発目標(MDGs)の保健分野の目標達成に向け、日本がどのように貢献していくかの道筋を示した。この政策では、世界で子どもの死因の約3分の1を占める栄養失調への取り組みが欠かせないと強調している。しかしながら、日本で途上国の栄養失調の問題について議論がなされるとき、具体的にはどのような点が俎上(そじょう)にあがっているだろうか?栄養失調の要因や結果への解決にこたえる形で、現在の食糧支援政策は策定されているだろうか・・・。
栄養失調、特に栄養不足は、食生活における必須たんぱく質、脂質、ビタミンとミネラルの不足を特徴とする、深刻な病状である。特に、成長期にある幼い子どもにとっては極めて深刻な問題だ。現在、世界には栄養失調状態にある5歳未満児が1億9500万人もおり、その90%はサハラ以南アフリカ諸国と南アジアに住んでいる。常に、少なくとも2000万人の子どもが重度急性栄養失調(最も死亡率が高い状態)に苦しみ、1億7500万人が栄養不良にかかっている。
栄養失調による悪影響のほとんどは、2歳の誕生日を迎える前の、幼い子どもたちに深刻な影響をおよぼす。この時期は、子どもの食生活の質がその後の健康と心身の発達を決定的に左右する。幼い子どもに望ましい栄養とは、その原則は既に確立されている。これは適切な状態にある母親からの母乳を生後6カ月間乳児に授乳した後に、牛乳、肉や卵といった動物由来の食品を含む、栄養価の高いさまざまな補助食品を始めることに主眼を置いている。
高栄養価のたんぱく質、必須脂質、炭水化物、ビタミンとミネラルを適量含まない食生活によって、子どもの成長と発達が阻害される恐れがあり、ありふれた病気であっても罹患(りかん)すると子どもの致死率を高めるだけでなく、生涯にわたって健康に影響を及ぼすことがある。しかし、援助国政府が実施する食糧援助の大半は、これら基本的な栄養の基準が満たされていない。
2010に国境なき医師団(MSF)は30万人を超える栄養失調患者を、28カ国、139プログラムにある団体の栄養治療センターに受け入れた。栄養失調に日々立ち向かうMSFの医療チームは、栄養失調が人間にもたらす被害と、必要な栄養が満たされた適切な食糧によって救える命を目の当たりにしてきた。MSFは、大規模な食糧援助国に向けて、これらの国が配布している食糧援助は、幼い子どもに欠かせない栄養が何かに目を向ける必要がある、とのメッセージを発し続けている。
世界食糧計画(WFP)、国連児童基金(ユニセフ)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など、食糧援助において中心的な役割を担う国連機関は、私たちの声に耳を傾け、その方針を変え始めている。2歳未満児の栄養ニーズに応える、新しい、そのまま食べられる栄養補助食(RUSF)は、2010年のパキスタンの洪水や、ハイチ地震といった、大規模緊急事態に際しては支援に欠かせないものとなっている。しかし、それですべてが解決されたわけではない。
途上国の保健省の大半はその政策の指針を国際保健機関(WHO)に仰いでおり、WHOはこれらの国に対して、中等度および重度栄養失調の治療に関しても明確な指針を策定する必要がある。また、主要な食糧援助国政府がその食糧援助政策を見直すことも重要である。
10月16日の「世界食料デー」は、政府、市民社会、経済界と一般大衆を含め、私たちすべてが、“栄養失調は病気”であり、これを治療するために、どのように食糧援助を使えばより効果的なのかを日本で考え始める機会である。食糧援助は、世界にいる1億9500万人の子どもが、必要としている、命を救う栄養価の高い食糧を保障するものでなければならない―。子どもたちを救う手段はある、その活用を可能にする政治的な関心と食糧援助についての議論を進める意思、そして財政支援がいま求められている。
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